it's hollow. だった

私はいまきっと好きなんだろうと思う仕事についている。好きなことを仕事にするなんてこと夢にも思っていなかった。高校時代、私は本を読むのが好きだから本に関係する仕事につきたかった。絵を描くのが好きだから絵に関係する仕事につきたかった。音楽が好きだから音楽に関係する仕事につきたかった。でもそんなの現実的じゃないし、と大学は経済学部にはいった。マーケティングなんて一切興味がなかったけど、将来のこと考えて会計士の資格をとろうかななんて思って、はいった。大学の勉強だけじゃ会計士の資格はとれないので、ダブルスクールまでした。在学中に資格をとることはできずに、卒業後も2年間学校に通った。一次試験に合格して、二次試験もあと一科目というところだった。


大学を卒業してから一年経った頃、出会い系サイトを介して出会った男性がいた。20代後半の、元バンドマンという経歴を除けばごく普通のサラリーマンだった。私(の言葉)がジョゼのボーカルに似ているから、という理由で出会った。何度か会ったある日のこと「俺は結局バンドで食っていくって夢を諦めてしまった立場なんやけど、君はまだ先があると思うねん。めちゃくちゃお節介やと思うけど、一日だけでいいから日あけてくれへん?」と半ば強制的にスタジオの面接を取り付けられた。その男性の知人が経営する写真スタジオ。写真を撮るのが好きだといったら、そんな流れになっていた。
一週間ほどして面接に向かったけど、結果不採用だった。ただそのときに「俺には君をどういう方向に育てたらええのかわからん。それにこんな会社やから最低限の生活のできる給料を渡されへんし、きっと君の将来を潰してしまうねん。だからもっと他のこと、今目指してる会計士でもいいし、他のスタジオでもいい。片っ端から挑戦して、全部だめやったらまた戻っておいで。」と言っていた。そのことをその男性に伝えると「視野、広がった?」と返ってきた。


それからしばらくはまた会計士の試験に向けて学校に通っていた。ただ「せっかくここまで頑張ったんだから資格はとりたいな」という気持ちはあったけれど、その資格を手に入れてどうしよう、と悩むようになっていた。会計士の資格をとれば会計士として働くのが当然なんだろうけど、私にとっての目標はあくまでも資格をとることだった。その先、のことを考えようとしても、現実的じゃないこと、たとえば本に関する仕事だとか、絵に関する仕事だとか、音楽に関する仕事だとか、写真に関する仕事だとか、そんなことばかり考えてしまう、から、その考えに蓋を閉じる。そんな日々の繰り返しだったけれど、スタジオに面接に行った事実は私の中で大きかったのかもしれない。現実的じゃなかったことが現実に一歩近づいたような気がした。

 


去年の秋、会計士の試験が終わり合否判定を待つまでもなく私は就職先を探した。カメラマンとしての仕事を。合格か不合格かに関わらず、私は好きなことを仕事にすることに決めていた。周りからの反対は大きかったし、逃げていると捉えられても仕方なかったと思う。それでも私にとってはよっぽど挑戦だったと思う。広告業界も、風俗カメラマンも、ブライダル業界も、写真に関するものなら片っ端から受けてみた。結果は散々だった。数年前に趣味ではじめた写真、それもまったくの独学なので当然の結果だと思う。それでもこれで最後、と思って受けたところで「写真、撮りたい?」と聞かれ「撮りたい」と答えると採用されてしまった。幸か不幸かわからないけれど、採用だった。


それから私はそのスタジオで働いている。気づけばもうすぐ半年になる。残業は多いし給料は少ない。相変わらず友達はいないし、煙草はやめられない。寝る前に飲酒をしてしまうし気を抜くと泣き言だって言いそうになる。夏至も過ぎてしまって、平成最後の夏も終わりに近づいてる。それでもこうして毎日が続いているのは、きっと写真が好きだからだと思う。


いままで写真を撮らせてくれたたくさんのひとたち、その写真をみて喜んでくれたひとたち、いまは個人的な趣味で写真を撮る機会は減ってしまったけれど、いつかまた、写真を撮ることのできる機会があればいいなと思います。

 


that's a good look.だったりlove songみたいな写真を。

 

覚えてた夢、秋から夏にかけての話。