点と点の夜のはなし

私はライブハウスが苦手だ。だってうるさいし臭いし人がたくさんいるんだもの。でも懲りずにライブハウスへ出向いてしまう、それはいつだって不意の思いつきのようなものだった。
YouTubeなんかで知らない人たちの曲を聴いたりして"なんかいいな"と思ったその週のうちにライブに出向いていたり、好きなバンドが大阪にくるとなれば"せっかくだし行っておこうかな"と見に行ったり、悲しいけれど解散ライブだと聞くと"見納めに行かなきゃ"と足を運んでしまう。それでもライブハウスは苦手だ。だって結局何を見たのか覚えてないんだもの。

 

何年か前の冬、HASAMI groupのライブを見た。当時私が最も聴いていたバンド(バンドといって良いのかわからないけれど)の恐らく最初で最後の機会だと思ったから、行った。とりあえず行き帰りの飛行機だけはおさえて、それ以外の予定はなにひとつ決めずに向かった。
成田から三軒茶屋に向かって開演前までコメダで過ごした。ここのコメダはからあげ置いてるんだとかそういうことを思った記憶はっきりと残っているのに、仲の良かった人の誕生日を忘れてしまったりするのは悲しいと思う。
被り物をした人がギターを弾いていた。でもそれがウサギだったのかパンダだったのか、それすら覚えていない。今思えば三軒茶屋コメダだったのかさえ不確かだ。でもからあげが置いてあったのは確か。私の記憶はとても脆いのだと思う。だからこそ「誰かの記憶に残ること」に重きを置いてきたのだと思う。
ライブの記憶はほとんどない、あの曲やったなあと思い返すくらいで、それがどんな様子だったかは覚えていない。

 

ライブが終わってから私は下北沢に向かった。「雑煮食うか?」と聞かれ私はそこではじめて関東の雑煮を食べた。養命酒ジンジャエールで割ってくれと頼んだらイェガーをジンジャエールで割られた。baby metalを聴いていた。気がついたら知らないバンドマンとタクシーで鳥貴族を回っていた。気がついたらまた別の店でラフロイグを飲んでいた。気がついたら下北沢のカプセルホテルでひとりでいた。全て点でしか覚えていない、点と点が繋がらないまま大阪に帰ってきた。

 

先日、以前よく通っていた飲み屋にいった。1年ぶりくらいに訪れたその店でいつものだし巻きを頼んだ。ひとくち食べた瞬間に、味が変わったことに気づいて少し悲しかった。でもその店は以前と変わらず養命酒ジンジャエールで割ってくれるし、それを飲むたびに養命酒の置いていない下北沢の点ばかりの夜のことを思い出す。そしてやっぱりライブハウスは苦手だなと、バンドマンが営む、音楽の話題が飛び交うそのカウンター席で考えたりする。